フリーランス、会社員、シード期スタートアップCTOなど様々な経験をされてきたiCAREのCTO工藤さんにどのようなキャリアを歩んでこられたのかをお聞きしました。
<プロフィール>
株式会社iCARE CTO:工藤大弥さん
これまでのキャリアの道のり
工藤さん:
キャリアの半分以上がフリーランスでした。複数のスタートアップの開発の手伝いを経験してきて、社員数1桁の立ち上げフェーズの会社に属していたことが多いです。実はiCAREのようなエンジニアが数十人もいるような開発組織で働くのは初めてでした。
LAPRAS:エンジニアとしてはどのようなスタートだったのですか?
専門学校では組み込み系のプログラミングを学んでおり、独学でWebプログラミングを学んでいました。プログラミングを仕事にしてみたいと感じ、アルバイトを募集しているベンチャー企業があり、そこで採用していただいたのがWebエンジニアのスタートでした。
数カ月間アルバイトする中で、ある日社長に「来年の春からどうするの?」と声をかけられたことがキッカケで入社し、会社員として働き始めました。実は、当時は新卒採用というシステムに馴染めず、一般的な就活は全くしていなかったんです。笑
そこはWebサービスの受託開発を中心とする創業3年目くらいのベンチャーで、学生アルバイトのエンジニアは何人かいましたが、フルコミットするエンジニアは私と社長だけでした。
工藤さん:
その会社では3年ほど勤めた後に経営方針の転換に伴い退職する運びとなり、その後フリーランスになりました。受託開発だけではなく、自社サービスの立ち上げもやらせてもらっていたので「Webエンジニアとしてある程度ひとりでやっていけるかもな」とは思っていました。また、転職エージェントの方とお話しした際に、市場価値を客観的に知ることが出来て「それほど悪い方ではない」と思えたので少し自信はありました。
工藤さん:
2013年頃はエンジニアの傍らDJとしても積極的に活動していたんですが、あるイベントで知り合った方に「作りたいサービスがあるんだけど、相談乗ってもらえない?」と声をかけていただきました。アイデアに対して何回かブレストを重ねた後に、エンジェル投資家からの出資が決まり法人化することになり、1人目社員のリードエンジニアとしてジョインしました。
LAPRAS:
工藤さんのターニングポイントは何かしら人が関わっているというのが多いですね。
工藤さん:
人にはかなり恵まれていると思います。フリーランス時代に「どうやって仕事を取ってくるのですか?」と質問されることもあるのですが、営業はほとんどしたことがなく、紹介が9割くらいで案件のご縁をいただいていました。
LAPRAS:
エンジニアでもタイプが分かれていて、人との交流を積極的に図りコミュニティに属したい人や、専門性を突き詰めたいから自分の世界でやりたいという人がいらっしゃいますが、工藤さんはどちらかというと前者のような気がします。
工藤さん:
専門性への憧れはありますね。技術的に尖ったところがあまりないなと思った時期もありました。ただ色々な案件をやらせてもらって、ある時期から自分の強みとして0→1が得意なのかなと思い始め、そこは自信がついてきましたね。
工藤さん:
2020年頃、エンジニア歴でいうと10年ぐらいです。
2017年から2020年の春頃までシード期のスタートアップでCTOを務め、そこからまたフリーランスに戻った後、改めて今後のキャリアとブランディングについて模索した時期がありました。
そこで考えた末に、「ゼロイチエンジニアリング」という立ち上げフェーズに特化した技術コンサルティングのプロジェクトを立ち上げました。開発のご相談をいただく中で立ち上げフェーズ特有の事業の考え方や、エンジニアリングとの向き合い方をアドバイスさせていただき、一定価値を感じてもらえたんじゃないかなという実感もあり、そういった経験いくつか積み重なって1つ自分の武器として自信がついてきましたね。
LAPRAS:
ありがとうございます。自分で立ち上げてきたという経験と第三者の方にコンサル的にアドバイスする経験の両方をやってきて、相乗効果で自信になったんですね。
組織フェーズによるCTOの違い
工藤さん:
初期フェーズ(シード期)でのCTOの主な役割は、プロダクトのアイデアを自ら手を動かして形にすることが求められることが多いと思います。、初期フェーズは、バーンレートから逆算し半年から1年先を見据えた戦いであることが多く、限られたリソースの中で事業仮説を迅速に検証することが重要です。この目標を達成するために、短期〜中期の技術戦略のWhy/What/Howを考え自ら実行する役割を主に果たすことになります。
一方、現在のiCAREは、比較的レイターステージのスタートアップ企業であり、開発組織は正社員30人程度、業務委託を含めると50人ほどの大規模組織です。このような規模でCTOの役割として最も重要なことは、ビジョンを示すことだと感じています。役割としては、会社のビジョン・経営戦略から開発組織のありたい姿を考え、開発組織の進むべき方向を示すことです。このような人数になると、各メンバーの意見が分散し、さまざまな視点が出てくるため、共通の指針が重要になります。1年から2年先を見据えどのような状態になりたいかを逆算して、中期〜長期の技術戦略や組織戦略を立てることは、事業成長を実現するためのCTOの役割として重要と考えています。
iCAREのエンジニアミーティングの様子
工藤さん:
中長期戦略を描き続けることの重要性は認識しつつ、描くための時間を確保しきれていないことに課題を感じています。私は2023年の8月からCTOになりましたが、技術課題・組織課題に直接コミットする範囲がまだまだ広い状態です。日々生じる課題の解決に費やす時間がまだまだ多く、少しずつ他のメンバーに権限委譲を進め、私が将来に向けて動ける時間をもっと増やすことが必要と感じています。Carely健康管理クラウドという主力製品を8年以上運用していますが、技術的な負債も蓄積されています。数年後も継続的な成長を実現するためのシステム基盤、アーキテクチャ、組織設計を考えるべきフェーズです。そこにもっとにコミットする必要があると考えています。
工藤さん:
入社したタイミングでは、CTOになるとは想像もしていませんでした。私の仕事のスタンスとして、技術やマネジメントにおいて特定の役割にこだわりはなく、事業がうまくいくことと会社が成長することを大切に、自分が価値を発揮できるポジションを担いたいと考えています。CTOの話をいただいた際も責任あるポジションのためしばらく悩みましたが、私がその役割を担うことで、会社や開発組織を少しでもより良い状態にできるかもしれないと感じ、引き受けることにしました。
CTOなどのハイクラスポジションに就くために
工藤さん:
他の会社のCTOの方とも話す機会がありますが、CTOになりたくてなられた方はほぼいないのではないかと思います。CTOになられた方を見ていると、開発をしていく中で生じる技術課題、組織課題などいろんなボールが投げこまれても打ち返し続けられる人や、自分で課題を取りに行けるような人が自然とそういう役割を任されるんじゃないかなと思います。
CTOってなろうと思ってもすぐなれるものじゃないんですよね。CEOは極論登記すればすぐなれますが。CTOは誰かの信頼を得られた結果、後から肩書きがつくポジションかなと思います。
工藤さん:
事業や組織のフェーズ・その他の経営メンバーのスキルセットによっても異なる部分はあると思いますが、経営課題・技術課題・組織課題など、それぞれに向き合っていくことは求められるので、たしかに幅は広いですね。また、すべての課題をCTO自身で解くのは限界があるので、課題解決を任せられる人を採用する・育成するといった観点もCTOの役割として重要なミッションのひとつだと思います。
ちなみに私はiCAREでは、開発チームのリーダーとして3名のマネジメントからスタートし、その後2チームを見るマネージャーを任されました。そしてVPoEとして30名ほどの組織全体を見るようになり、さらにCTOを任せていただき、入社から1年半で次第に解くべき課題の幅が広がっていきました。
その時々のポジションで任せてもらったことに対して、万事うまくできたわけではないですが、より良いプロダクト・開発組織づくりを目指し懸命に課題に向き合ってきたため、より大きな責務を任せても大丈夫だろうと信頼し、任せてもらえたのではないかと思います。
そう振り返ると課題解決力はもちろんのこと、CTOは胆力が求められますね。他社のCTOの方々ともよくお話しますが、タフな人が多いなと感じます(笑)
工藤さん:
CTOコミュニティには、心のよりどころとしてかなり助けられていますね。CTO協会があったり、CTOが有志で集まるようなイベントなどもちょこちょこ行われているので、そこで課題や悩みなどを話しています。
ハイクラスポジションならではの転職の難しさ
工藤さん:
私の場合、転職活動の経験がないのでお聞きした話にはなりますが、キャリアを重ねると、入社後にお手並み拝見感が生じるケースがあるのではないかと思います。エンジニアリングマネージャーなども転職をして2社目、3社目で、どのように再現性を持って活躍するかが業界全体の課題として起きがちだと思います。
私が仮に転職をする場合でも、すでに出来上がった組織のCTOやVPoEをいきなりやりたいかといわれると、そこはかなり難しいだろうなと思っています。
期待をいただいたとしても、まずはメンバーとしてある程度手を動かしながら現場の課題感も把握した上で、役割を広げていきたいです。マネジメントポジションに行ったとしても、マネジメントがキャリアのゴールではないので、現場で手を動かす側に行くなど、行ったり来たりしやすくなるといいと思います。
工藤さん:
どちらも良いところはあってフリーランスは自由が効くところですね。自分が学習を積んでスキルを高めたいと思えばそのような仕事を探したりすることができます。自分で学ぶのも大事なのですが、お金をいただく環境に身を置いてプレッシャーを感じた方がより研鑽が捗るということもあると思います。あとは時間の使い方も自由で、プライベートを充実させたり、やりたいことに集中するために仕事量を減らしたり増やしたりすることもできます。
一方で、会社組織に属する場合は、コミットメントの深さが違うのかなと思います。同じことに本気で取り組んでいく仲間がいるという楽しさも合わせて感じます。フリーランスだからそれができないということもないとは思うのですが、あくまで第三者に近いような関わり方になってしまう傾向はあるように感じました。
エンジニアとしての今後の展望
工藤さん:
1つあげるならいい人が多いところですね。やはり働くひとの健康を創るというパーパスに共感し集ってきた人だからなのか、嫌な人がいないですね。開発組織もそうですし、それ以外の他の部署とのコミュニケーションもそうです。
LAPRAS:
iCAREさんは、「フタをしない」といったクレドが浸透している雰囲気がありますよね。
工藤さん:
クレドとバリューが、我々の働き方の価値観の軸であり、会社としてもすごく大切に考えていて、実際にそれが浸透しているというのはコミュニケーションを取る中や仕事を見る中で感じます。
それこそ私が色々大きい裁量を任せていただけるようになったのも「フタをしない」という社風があったからだと思います。こういうことやりたいんです、という人にはどんどん積極的にチャンスを与えていくカルチャーがあります。
工藤さん:
フリーランスからiCAREへの入社を決めた大きな理由として、「働くひとの健康を世界中に創る」というパーパスに共感したことがあります。
親族が働くことで身体を壊してしまった経験から、痛感している社会課題の解決に自分のエンジニアリングスキルを活かせたらいいなという思いがあります。それを実現していくためにまずiCAREの開発組織が日本一良い開発者体験と誇れるような組織にしていきたいです。私が人生をかけてやりたいことも同じですね。
また、いつかエンジニアとしてやりたいことの一つが技術書を出すことです。iCAREの活動やこれまでの経験を通して培った知見を体系的にまとめてシェアすることで、色々な方に役立ててもらい、世の中の開発組織がより良くなることに貢献できればいいなと思っています。
工藤さん:
iCAREでは「楽しまなければプロじゃない」というクレドがあり、私はその考え方がすごく好きです。エンジニアリングに向き合う中で難しい課題がたくさん出てくると思いますが、それをいかに楽しみながら課題を解決するかという考え方、向き合い方というのはどんな環境にいても大切だと思います。
難しい課題であればあるほどやりがいがあるという。それがエンジニアの楽しさだと思います。この記事に目を通してくださった方は、きっとそんなチャレンジングな問題解決が好きな方が多いのではないかと思います。これからも、エンジニアライフを楽しんでいきましょう!
LAPRAS:
ありがとうございました!
株式会社iCAREのご紹介資料
https://www.docswell.com/s/iCARE/54QVM1-icare_culturedeck