市役所職員から始まったユニークなキャリア。GMOペパボ取締役CTOの栗林健太郎さんに成長し続けるエンジニアに必要な考え方を聞く

技術の進歩が目覚ましく変化の大きい現代において、エンジニアのキャリアは多種多様になっています。技術を極める他に、マネジャー職への転身、大学院への進学など、選択肢が多い分、迷われる方もいるのではないでしょうか。

そこで今回、GMOペパボ株式会社取締役CTOの栗林健太郎(通称:あんちぽ)さんに、お話を伺います。栗林さんは市役所の職員として働くかたわら続けていたブログがきっかけで、エンジニアの世界に入りました。現在は、企業のCTOとして働きながら、北陸先端科学技術大学院大学で研究にも従事しています。

栗林さんがどのようにキャリアを選択してきたのか。成長し続けるために必要なこととは? エンジニアのキャリア形成の秘訣を伺いました。


(プロフィール)株式会社GMOペパボ 取締役CTO 栗林健太郎
大学卒業後、奄美市役所に入職。ソフトウエアエンジニアに転じ、はてなを経て2012年よりGMOペパボ勤務。Webアプリケーション開発者、マネジャー、執行役員を経て、17年に取締役CTOに。北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程在学中。エンジニア界隈では「あんちぽ」の愛称で知られている

「長期的なビジョンはなかった」面白いものに挑戦し続けてきたキャリア

——まずは栗林さんの現在のお仕事について教えてください。

GMOペパボの取締役CTOとして、上場企業の経営に携わっています。主に技術部門の全責任を追う立場で、技術戦略の策定、アプリケーションの技術基盤やそれを支えるインフラ基盤に従事しつつ、それ以外にもカスタマーサポート部門も兼任。広い意味で、会社のサービスを下支えする役割をしています。

また、2016年に「ペパボ研究所」という企業内研究所をつくり、所長になりました。既存の技術を使うだけではなく、自分たちで新しい技術を作っていく取り組みをしています。

さらに、最近の潮流を受け、既存サービスにどうWeb3の技術を落とし込むかを研究・開発する「ペパボ3推進室」を立ち上げました。具体的には、イラストや写真からグッズを作成・販売できるサービス「SUZURI byGMOペパボ」とNFTを連携して、OpenSea上のNFTコンテンツからグッズを作る仕組みなどを作りました。

——技術領域のスペシャリストでありながら、経営に関わる幅広いことをされている、と。そんな栗林さんがエンジニアになったのは、キャリアの途中からでしたね。

最初の仕事は市役所の職員でした。プログラミングに触れ始めたのは、仕事のかたわら趣味で始めたブログがきっかけです。当時、ブログサービスが世に出始めたころで、よく書いていた日記をネット上でやってみようと思いました。

そのうち、プログラミングができればもっと効率が良くなることを知って、PHPを書くように。ブログをカスタマイズして発信していました。すると、現在『Rebuild.fm』を運営されている宮川達彦さんや、当時、株式会社はてなでCTOをされていた伊藤直也さんらの目に止まり、書籍『Blog Hacks』(オライリー・ジャパン)に寄稿する機会をもらったりもしたんです。

仕事としてエンジニアを始めたのは、2008年です。ネット上で出会った人から、はてなに誘われて入社しました。「はてなダイアリー」「はてなブックマーク」などのサービスに関わったのち、サービス基盤や開発プロセスにも興味を持つように。

そして、GMOペパボ(当時は、paperboy&co.)の技術責任者だった方が、ちょうどそのポジションを募集していることを知ってアプローチしました。2012年にGMOペパボに入社。2015年に技術責任者を引き継ぎ、ペパボ初の執行役員CTOに。2017年から取締役CTOに就任しています。

——キャリアの選択で意識してきたことはありますか?

面白いと思えるものにどんどん取り組んでいっただけで、長期的なビジョンを持っていたわけじゃありません。僕は、飽き性なんですね(笑)。必ずしも新しい技術ではなく、自分にとって新しいと思える技術や経験に取り組んできた結果、今のキャリアがあります。

なので、よくいわれる「エンジニアかマネジャーか」みたいな二元論は考えたことはありません。エンジニアとして専門性を高めることも、マネジャーとして専門性を高めることも、アプローチの仕方が違うだけで、自分を成長させてどれだけうまく物事を成すかという点では、大きな違いはないと考えています。


今も、CTOをやりながらYouTuberとしても活動しているんです。GMOペパボは「人類のアウトプットを増やす」というミッションを掲げ、クリエイターを支援する会社なので、自分たちもクリエイションを楽しもうと思って......というのは半分建前で、単にそうしたことが好きなので、遊びや趣味の感覚でやっています(笑)。

エンジニアのキャリアにおける「大学院進学」の意味

——仕事と遊びの境界があいまいで、楽しそうですね。2020年には北陸先端科学技術大学院に入学されました。新しい技術を学ぶためでしょうか?

技術を学ぶためではなく、アカデミックな研究技法を学ぶためです。サービスや事業に対してインパクトを出すために、ペパボ研究所の研究レベルを上げる必要があります。メンバーの数も増えるなか、指導をする立場の自分も、プレイヤーとして一定以上の実力が必要だと感じて院進学を決めました。

——大学で学び直しをするビジネスパーソンも増えてます。成長意欲が高いエンジニアの方にとって、大学院に進学するメリットはあると思いますか?

目的次第だと思います。コンピューターサイエンスを体系的に学び直したい人には、必ずしも大学院にいくことをオススメはしません。なぜなら、大学院は研究機関なので、「学習」とはちょっとベクトルが違うんです。それなら夜間の大学や放送大学など、広く体系的な勉強ができる場所のほうが合ってると思います。

一方、エンジニアとして経験を積んだ先に研究職を目指していたり、企業内の研究所の立ち上げを目指していたり、あるいはAIなどの先端技術を専門的にやりたい人にとっては、研究機関は相性がいいだろうと思います。

——先端技術に触れたい方は、そうした技術を扱う新興ベンチャーで働く選択肢もありそうですね。
ユーザーに使われるサービスを作ることと、新しい技術を開発することは、必ずしも一緒ではありません。企業で求められるのは、お客様に喜んでもらえるもの。研究の場合は、アカデミックな文脈において、この技術がどれくらいすごくて、先行研究とどう違うのかの説明をしなければならないので、アプローチが完全に違います。

ですから、同じような技術を扱うとしても、その人が何をやりたいかによって選ぶべきです。やりたいことと求められていることがマッチしている選択肢を選ぶのがいいと思います。

「欲望」で描いた方向性を「強み」で正解にしていく

——自分の「やりたいこと」を理解することが、キャリアを選択するうえで重要ですね。

そうですね。キャリアに悩む人の多くは、自分が好きなもの、持っている欲望を自覚できていないと思います。そういう人ほど、新しい技術がどんどん出てくると「あれもこれもやらなきゃ」と、パンクするわけです。その結果、もとより不可能なのにもっとも効率がいい選択をしようという発想におちいってしまう。

良いキャリアを選択するには、まず自分の欲望に目を向けることです。「とにかくお金を儲けたい」や、「すごいサービスを作りたい」でも、なんでもいい。それが見つかると、思考することはあっても、選択肢に悩むことはなくなると思います。

——栗林さんは、自分の欲望を自覚していたんですか?

文章を書くことや本を読むことが、子供のころから好きでしたね。いまでも手当たり次第、さまざまなジャンルの本を、年間200冊くらい読んでいます。新しい知識を勉強すること自体が好きで、その欲望に忠実に生きてきたのが、技術やマネジメントの情報をキャッチアップしたり、研究して論文を書いたりするうえでの強みになっているんです。

自分の強みが分からない人も多いと思いますが、それには理由があります。一つは、強みとは本人からすると当たり前になっていることが多いからです。無意識でやっていることなので、経歴や取り組んできた仕事、仕事への取り組み方などを他の人から見てもらうことで、傾向が分かる場合があります。

もう一つの理由は、強みを「すごいもの」と思いこんでしまっているからです。強みと聞くと、人よりも圧倒的に優れているスキルなどを思い浮かべる方もいるかもしれません。でも、本当はもっとマイルドで、「やり続けても苦にならないこと」くらいのものだと思います。人と比べて突出していないことでも、その人にとっては「強み」であったりもするわけです。

——では、人と対話したり、自分の傾向を振り返ることで「強み」が分かったとします。それをどう目の前の仕事や、キャリア選択に反映させていくと良いでしょうか?

強みを抽象化して、汎用性を持たせることが大事です。僕のように「文章を書くのが強み」のエンジニアが、そのままの文章力を日々の仕事に当てはめるのは難しいかもしれない。でも、抽象化して「自分の考えを言語化することが得意」「アイデアを構造化してドキュメントにするのが得意」となると、話は違ってきます。デザインドキュメントやプロダクトストーリー、設計のアーキテクチャのドキュメンテーションなどに、文章力を活用できるんです。

キャリアの話につなげるとすれば、「自分にはこの強みがないから、このキャリアを選べない」なんてことは、あまりないと思います。どの仕事をするにしても、自分の強みを反映させることができるはずです。マネジメントの仕事においても、リーダーシップが優れていて、みんなを一致団結させることがうまいマネジャーもいますし、僕のように、考えていることをテキストでまとめることで、考えを伝えるマネジャーもいる。

「欲望」を自覚してキャリアの方向性を描き、「強み」をもって選択したキャリアを正解にすることが大事だと思います。


(画像)社内のマネジメントメンバー向け合宿にて(2019年)

固定観念をリフレーミングして、マイナーチェンジを繰り返す

——キャリアを積み重ねるために「成長」は不可欠だと思います。成長し続けるために必要なことを教えてください。

成長するためには、自分の固定観念を書き換える「リフレーミング」が大切です。すでに持っている考え方や価値観を一度崩し、新しくしていく過程に成長があります。リフレーミングは、他者の視点が入ることによって起きやすくなるので、やはり他者との対話が大事になってきます。

ただし、話す機会がいつでもとれるわけではないので、その代わりとして読書がオススメです。目の前の仕事に役立つ本もいいですが、リフレーミングのためには、哲学や社会科学などといった幅広いジャンルに触れるのがいいでしょう。自分の考えを補強するためではなく、「自分の考えを変えてくれるような本」を選ぶんです。

自分を変え続けるのはしんどいことでもありますが、慣れてしまえば楽しくなってきますよ。自分の古い考えをアンラーニングして、新しい考えをインストールしていく。新陳代謝される感覚を楽しみながら、マイナーチェンジを繰り返してキャリアを築くのが大事だと思います。

——技術や経験を積み重ねることは大事だけど、そこに固執し続けるのはよくないのですね。

そうですね。学習することでできることが増える一方で、逆にいうと、学んだものを守ろうとすることにもつながります。苦労して得たものは手放しがたく、いつの間にか新しいチャレンジを避けるようになってしまうことは、誰にでもあることです。なので、結局のところいろんなことに挑戦し続けるしかありません。エンジニアなら、モノを作っていくしかない。

最近、ChatGPTが話題になっていますね。あのような新しい技術が出てきたらとにかく使って遊んでみる。どうやって作れるんだろうと考えて、実際にコードを叩いてみることが大切。僕も先日、会社の仲間と一緒にChatGPTのAPIを用いて「教えてAIロリポおじさん」というものを作りました。

そうやってひたすら行動を繰り返していると、興味の幅が広がっていきます。ChatGPTで遊んでいたら、いつの間にかAIを作りたくなるかもしれないし、技術を研究するために大学院に入りたくなるかもしれない。欲望や強みのようなキャリア選択の「軸」を考えると同時に、エンジニアらしくモノづくりに邁進していければ、道が拓けてくるんじゃないでしょうか。

[取材・文] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之

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